恋を知らない人魚姫。




「でも、やっぱり緊張する」

そう言って、愛海が顔を強張らせるのは、あたしの教室の前。

「海憂、今日からうちのクラス来て!」

「無理だよ」

「うー……」

挨拶をされたその時まで、決して彼のことを話題に上げようとしなかった愛海だけど、本当は彼のことで頭がいっぱいだったんだと、分かっていたけど実感する。

「やだ、何か変な汗かいてきちゃった」

課題テストのことなんて、もうすっかり忘れていそう。

「大丈夫だよ」

ほら……と、背中を軽くポンと押す。

すると一歩だけ前に進んだ愛海は、振り返るようにあたしの顔を見た。

「何か海憂、ちょっと変わったね」

「え?」

「前から優しかったけど、今は何ていうか……」

適した言葉を探すみたいに、上へと上がる視線。

頭上に答えが書いてあるわけないのだけど、そうしてしまう気持ちは何となく分かる。

ほんの少しの間を置いて、愛海は再びあたしを見た。

微笑んで、口を開こうとした……瞬間、