恋を知らない人魚姫。


一変する表情。
口元こそ微笑っているものの、目はとても寂しそうなものへと変わる。

余計なことを言ってしまったかもしれない。

自らの発言を後悔しかけた……その時、

「……でも」

ポツリと静かに落とされた声。

見ると、愛海はこれから進もうとする道の先を見ながら、

「想ってるだけなら……いいかな?勝手な片想いなら……」

穏やかな声で、そう言った。


愛海の視線の先には、同じ制服を着た幾つかの背中。

後ろ姿だと、個性はほとんど感じられないけれど、どれを追っているのかは、あたしにも分かる。

小さくなっていく背中を、とても愛おしそうに見つめる愛海に、

「うん……」

あたしは自然と頷いていた。


ほんの少し前までは、愛海が櫻井くんのことを想うのが、あんなに嫌だったのに……。