恋を知らない人魚姫。


ふるえる気持ち、
ピリピリと刺したみたいに痛い喉。

高ぶった気持ちを落ち着かせるように、あたしは唾を飲み込んだ。

そして、

「本当に櫻井くんのこと……諦めるの?」

手を握って離さない愛海に、問いかけた。


「え……」

少し驚いた様子で見つめる愛海の顔には、“どういうこと?”って書いてある。

自分自身でも分からない。
こんなことを聞いて、一体どうしようっていうのか。

ただ、聞かずにはいられなかった。
櫻井くんの挨拶ひとつで喜んでいる愛海を見ていたら、聞かずにはいられなくて……。

だから、その質問の理由も、後に続ける言葉も、何も用意出来ていないあたし。

他にどうしようもなくて、黙ってじっと見つめていると、愛海は困ったように笑って、

「……諦めなきゃ。だって櫻井くん、彼女いるんだし」

さっきまできつく握っていた手を、するりと離した。