「海憂?」

ちゃんと聞いていなかったのがバレてしまったのか、確かめるように愛海が名前を呼んだ。

まずい。

そう思ったあたしは軽く笑顔を作って、「ん?」と、何もないフリをして返す。

真っ直ぐこっちに向けられた顔。

でも、目と目が合ったのは一瞬だった。


次の瞬間、愛海の眼孔は小さく動いて、同時にビクッと跳ねた肩。

「あ……」

震えた声を零すと、顔は真っ赤に染まった。


嫌な予感に血の気が引いて、振り返る。

するとそこにいたのは……やっぱり櫻井くん。


「おはよ」

挨拶されても、声が出ない。

目を丸くするあたしを面白がっているのか、彼は微笑を浮かべていて。

何でこのタイミングで近づく?
すぐ隣には愛海がいるっていうのに。

そうだ、愛海っ……。

ふと思い出して、心配になって顔を動かした。

櫻井くんに失恋した愛海。
彼と顔を合わせるのはきっと、あの日以来なはずで。

見ると愛海は予想通り、気まずそうで苦しそうな顔をしていた。

「っ……」

その表情にあたしも苦しくなって、手を伸ばす。

愛海をここから連れ出して、逃がしてあげようとした。

だけど、