「海憂、そろそろ行く時間じゃないの?」

食卓の椅子に腰掛けたまま、ボーッとテレビを見つめていたあたしに、お母さんが問いかける。

カシャンカシャンと、食器を洗う音。

ひんやりと冷たいあたしの片手には、中身のカフェオレを無くし、氷だけが残ったグラス。

「そんなに気になるニュースなの?」

手は動かしながら、カウンター越しにテレビを見ようとするお母さん。

「……いや、別に」

テレビに映るニュースの内容なんて、全然頭に入っていない。
ただ目を向けていた、それだけで。

あたしはグラスを持ったまま立ち上がって、「これも」とシンクに置いた。

そして、椅子に置いていた鞄を持ち上げ、肩にかける。
ずしっとのしかかる、久しぶりの重み。

「お弁当入れた?」

「うん。じゃあ、行って来ます」

日課のような会話を繰り返して、あたしは家を出た。