彼はフッと、ため息よりも軽い息を吐いて、
「ちゃんと考えてんじゃん」
あたしに向かって笑った。
ちゃんと……考えてる?
馬鹿にはしていないって、そんな気はしていたけれど、その言葉と笑顔は予想外。
状況が、意味が、よく理解出来なくて、小さく口を開ける。そんなあたしの様子なんてお構いなしに、
「今のままじゃダメだって思うんならさ、もっと自分のこと考えてみたら?」
彼はさらりと、とても簡単にそう続けた。
「自分のこと……」
そんなこと言われても、分からない。
考えると浮かぶのは、愛海に依存している自分ばかりで。
ただ……このままじゃダメだって、それは思ってる。
でも、だからどうすればいいっていう、具体的な答えまでは見付かっていなくて。
だから、迫りくる進路決断に迷って、悩んでいるわけなのだけど。
「……」
何と返事したらいいのか分からず、口ごもるあたしに、
「ま、もうちょっとゆっくり考えてみたらいいんじゃない?月城さんなら、ギリギリで進路変えたって余裕でしょ」
櫻井くんはまた、とても軽く言葉を零すと……
手のひらをポンっと、あたしの頭の上に乗せた。



