恋を知らない人魚姫。


根拠はないし、どうしてこんなことを思うのかも、分からない。

だけど、笑ってない。

櫻井くんはきっと、あたしのことを馬鹿にして、笑ってなんかいないと思った。


耳に響くのは、夏の虫の音だけ。
ただひたすら、流れる沈黙。

あたしが口に出してしまったそれは、紛れもなくずっと考えてしまっていたもの。

愛海が両親に認められようと、必死に頑張っているのを見る度、
他の人達が夏休みを犠牲にして、勉強している姿を見る度、

“あたしはこれでいいの?”……って、自分自身でずっと投げかけてた。

認めたくなかったけど、櫻井くんが指摘して来た通り。
あたしは進路のことで、悩んでしまっているのかもしれない。

愛海と同じ道を進むことに、何の迷いもなかった……はずなのに。


息が詰まるような思いに、顔を落としかけた……その時、

熱くも冷たくもない風が、あたしの隣を通り過ぎた。

顔を上げると、目の前に櫻井くん。