恋を知らない人魚姫。


また胸がきゅっと苦しくなる。

せっかく忘れかけていたのに……。

自然と重くなる足取り。
意識して空けたわけではない距離が、次第に広がっていく。


ただでさえ塞ぎ込んでしまったあたしの目に、追い討ちをかけるようにある建物が映った。

……駅前の学習塾。

ガラス窓には、去年の有名大学合格人数、合格率が大きく貼り出されている。

中では個別に、同年代の人達が指導を受けている。

「……」

足を止め、その様子をじっと見つめてしまっていたあたしに、

「高校生ですか?何年生?」

誰かが声をかけて来た。

見ると、夏だというのにスーツを着た男の人。この塾の職員であることは、一目にして分かる。

「いや、あの……ごめんなさいっ」

塾に入りたいとか、そういう気があったわけではなくて。
勧誘される前にと、頭を下げて逃げる……と、

少し離れた場所に立った櫻井くんが、こっちを見て笑っていた。