恋を知らない人魚姫。




2時間。ギリギリまで歌ってカラオケを出ると、空はもう真っ暗で、すっかり夜になっていた。

「遅くなったけど、大丈夫?」

「うん」

途中メールしておいたから、家族への心配はいらない。

小さく「良かった」と、呟いて歩き出した彼を、あたしも追って歩き出す。

「何だかんだで、熱唱だったじゃん」

「……そっちこそ」

クスクスと笑う、櫻井くん。

カラオケは嫌だ、絶対歌わないって、決め込んでいたはずなのに、気づけば彼の言葉通り、熱唱してしまっていたから恥ずかしい。

でも、思いっきり歌えて気持ちよかった。
歌っている間は確かに、嫌なことなんて忘れられた。

まさか櫻井くんの前で、こんなに自由に、遠慮もなく歌えるとは思わなかった。

「ちょっとは心開いてくれた?」

「えっ?」

彼の問いかけに、顔を上げる。

まるで心の中を覗かれていたような、絶妙なタイミングでの質問。

どうして……という顔をしてしまっていたのか、

「行きより距離、近くなってるから」

櫻井くんは言葉を付け足した。