恋を知らない人魚姫。


すると、櫻井くんは再び体を起こして、

「気にせず歌いなよ」

机に頬杖をついて、微笑んだ。

「……」

言葉が出ない。

“気にせず歌いなよ”ってことは、あたしにあの時のことを気にさせないために、歌ったってこと……?

「どうした?そろそろ歌いたくなってるんじゃない?」

「っ、まさか!」

……また。
考えるより先に、口から出た言葉。

咄嗟に否定してしまったけど、櫻井くんがあたしの好きな曲を歌ったりするから……本当は歌いたくなってるかもしれない。

それに、

彼があたしの為にここへ連れて来てくれて、好きでもない曲を歌ってくれたのだとしたのなら……

歌ってあげてもいいかも……なんて。

だけど、一度発してしまった言葉を、今更取り消すなんて出来ない。

どうしよう。

あたしはチラッと彼と目を合わせて、

「もう一曲歌ってくれたら……あたしも歌う」

声控えめに、そう言った。