恋を知らない人魚姫。


「え……」

当たり前のことを確認する、そんな櫻井くんの口ぶりに目を丸くする。

だって、歌うのが好きだとか、そんなこと今まで一度も言ったことがない。

ただでさえ動揺して、返す言葉が見つからずにいるのに、

「好きなことしてる時ってさ、嫌なこととか忘れられる気がしない?」

続けられた言葉が、あたしをもっと混乱させる。

何、それ……。

あたしが歌うの好きだから、
何か嫌なことを抱えていそうだから、

だから、カラオケに連れて来たって言いたいの……?

心の中で思っても、声には出せない。

「あなたとここにいるのが、そもそも嫌なことなんだけど」

本当に言いたいことは言えなくて。思っているのか思っていないのか、自分でもよく分からないことを口にして、また顔を逸らした。

すると、

「言うね」

クスクスと苦笑する櫻井くん。

平然といつもの様子でいられるのは、特に意味のない発言だったからなのか。