恋を知らない人魚姫。


でも、どんなに予想出来ていても、恥ずかしさは減ってくれない。

彼に忘れて貰いたいことは、数えきれないくらいあるけれど……一番はこれかもしれない。

「そんな怒ることないじゃん。月城さん歌上手いんだからさ」

「またそうやって適当なこと……」

煽てたって歌わない。
そんな手に乗るほど、あたしは単純じゃない。

意地を張る子どものように、顔を逸らし続けて目を合わせずにいると、

「喜んでくれると思ったんだけどなぁ……」

脱力した感じの声が、耳に届いた。

……これ、罠かもしれない。
そう思いながらも、

「喜ぶ?あたしが?」

掴めない言葉の意味と、聞き慣れない声の調子に、顔を動かして問いかけてしまった。

すると、

「他に誰がいんの?」

テーブルに体重をかけ、気怠そうにした櫻井くんと目が合って。

「歌うの、好きでしょ?」

真っ直ぐ問い掛けられた。