恋を知らない人魚姫。


コトン……と、小さな音を立て、あたしの目の前にさり気なく置かれた物。

それは、リモコン。

テレビのみたいにボタンは付いておらず、全面タッチパネルになっていて、横にペンが付いているその機会は……曲を選んで転送するもの。

「あ!あたし歌わないっ!」

櫻井くんの妹のことで考え込んでいたはずなのに、そんなの一瞬で吹き飛んで、目の前のリモコンを押し返す。

「何で。カラオケに来て歌わないとかなしでしょ」

ずいっと、再びこっちへ寄せられるリモコン。

「“音痴だから”とか、言わせないよ?」

「っ……!」

向けられた、嫌な笑顔。
はっきり口に出さない所がいやらしい。

「馬鹿にしたいなら、すればいいじゃない」

前のめりになっていた体の背中を、ソファーにくっ付けて、あたしはプイッと顔を逸らした。

ここへ連れて来られた時点で、予想はついてた。

教室で歌っていた時のこと……嫌でも触れられるって。