恋を知らない人魚姫。


ギッ……。

短い音を立て、開かれた15と数字の書かれたドア。

先を行く櫻井くんが、流れのように電気を付けるけど、それでも薄暗い室内。

カシャン……と、後ろでドアの閉まる音がして、

ふたりっきりの密室になる。


「せっかくのデートなんだからさ……」

声をかけられると同時に、掴まれていた手は離されて。

「もっと楽しそうな顔してよ」

櫻井くんは振り返って、あたしに言った。

……デート。

何気ない言葉が、ズシンと心に乗し掛かる。

こうして櫻井くんと一緒にいることは、やっぱりそういう意味になってしまうのか。

だったらまた、あたしは愛海を裏切るようなことを……。


「楽しいわけ……ないじゃない」

あたしは彼から顔を逸らす。

大嫌いな櫻井くんとカラオケに来て、
しかもそれは愛海を裏切る行為で、
楽しいわけがない。

人の目を気にする度、考えて、感じる気持ちは罪悪感だった。

強制されない限り、一緒にいない方がいいのは分かってる。

それなのにあたしは、
何を求めてこの人の傍にいるの……。