恋を知らない人魚姫。


開いた距離を一歩縮めたかと思うと、

「行こ」

彼はにっこり笑って、あたしの手を取った。

「なっ……」

嫌がる余裕もなく、引っ張られる体。

ここまで来たら、もう逃げることなんてしないのに、どうしてこんなことをするのか分からない。

「やめてよっ」

誘導する力に従って歩きながら、小さく声を上げる。

気になるのは、店員の視線。

こんな風に手を引かれたら、きっと――。

振り返って、確認しようとした。そんなあたしの行動を、

「何で?付き合ってんだからいいじゃん」

櫻井くんの声が止める。そして、

「周りからは、ただのカップルにしか見えてないよ」

変わらず足を動かしながら、チラッとこっちを見て、続けられた言葉。

「そんなの気にしてなんかっ……」

咄嗟に言い返してみるけど、正直その言葉は、胸の奥にグサリと刺さった。

“周りからどう見られているか”

それは正に今、あたしが考えていたことで。