恋を知らない人魚姫。




「いらっしゃいませ!2名様ですか?」

自動ドアを通り過ぎ、店内に入ったあたし達を迎えたのは、空調の効いた冷たい空気と、お兄さんの明るい声。

何か面白い話で盛り上がっていたんだろうか。
あたし達を見るなり、パッと雑談を止めた店員だけど、その声には笑みが混じっていて、楽しそう。

「会員カードはお持ちですか?」

聞かれて、ポケットから財布を取り出す櫻井くん。

そんな様子を、2歩ほど後ろから見ていたあたしだけど、
カードを待つ店員とふと目が合って、顔を逸らした。

「ありがとうございます。お時間はいかがなさいますか?」

「えっと……じゃあ、2時間で」

ひと言も相談されることなく、淡々と決められる。

「では、突き当たりを曲がった15号室になりますね」

「はい」

部屋の鍵を受け取って、櫻井くんはやっと振り返った。

でも、そのまま……あたしの顔を見て、動かない。

……な、何?

人前で、何と声をかけたらいいか、どんな顔をしたらいいのか分からない。

とりあえず、知らない人にでも、彼に好意を持ってるとは思われたくない。

あたしは軽く睨みつけようとした……けど、

それより先に櫻井くんの方が動いた。