恋を知らない人魚姫。


「とりあえず中入ろ」

グイッと、引っ張られる腕。

そのままあたしの体は2、3歩ほど前に進むけど、

「ちょっ……ちょっと!」

我に返って、足を止めようとする。

“とりあえず”って、何なのよ!

「あたし嫌だって」

言ってるじゃないって、続けようとした言葉。

だけどそれが途中で、言えなくなってしまったのは……


とても強い力で、引き寄せられたから。


目の前には、彼の顔。

「誰が見てるか分かんないけど、大丈夫?」

少し動けば触れ合ってしまいそうな、数センチの距離で、彼は笑う。

「月城さんが大丈夫って言うんなら、俺は全然いいけど……早く中に入った方がいいんじゃないかな?」

言いながら、あたしから外される視線。

追いかけなくても分かる。
分かってる。

周りの人たちが、あたし達を見てること。

「どうする?」

「っ……」

再び目を合わせ、微笑を浮かべる彼から、あたしは目を逸らした。

“それでもいい”なんて、言えるはずがない。

誰かに見られて困るのは、あたし。