恋を知らない人魚姫。


回れ右をして、逃げ出そうとした……瞬間、

ガシッと掴まれた腕。

「どこ行くの?」

「帰るっ!」

あたしは声を張り上げて、櫻井くんの手を振り解こうとする。

だけど、しっかりと掴まれていて、なかなか離れてくれない。

「離してよ!嫌だってば!」

「何で?時間大丈夫なんでしょ」

フッと笑う、櫻井くん。
そういう問題じゃないの、分かってるくせに。


「カラオケだけは、絶対に嫌っ!」


そう。櫻井くんがあたしを連れて来た、目の前の建物は……カラオケボックス。

見覚えがあったのは、愛海と何度か来たことがある場所だから。


「月城さん、すごいなぁ……」

腕を掴んだまま、櫻井くんはクスクスと笑う。

「そんな大きい声出すから、注目浴びちゃってるよ」

「え……」

言われて周りを見ると、道行く多くの人が足を止め、あたし達のことを見ていた。

そんな大きい声、出してた?

自覚がなかっただけに恥ずかしくて、一瞬にして顔が熱くなる。