恋を知らない人魚姫。


後ろ……?

そんなの、当たり前じゃない。
だって連れ出してるのは、櫻井くんなんだから。

後ろじゃなかったら、どこを歩けって言うの?

行き先を知らないあたしが、前を歩くことなんて出来るはずもないし。

意味の分からない発言。
なのに、小馬鹿にするように笑われて、何だか嫌な感じ。

「まぁいいや。着いたよ」

笑うのを止めて、前を向く櫻井くん。

まぁいいや……って、それはこっちのセリフ。

心の中で呟きながら、目の前の建物へと目を向ける……と、


真っ先に飛び込んできたのは、料金表。

平日、週末と区切られた枠の中に、それぞれ数字とフリータイムという文字が並ぶ。

そこから少し視線をずらせば、もうすぐ傍に大きな自動ドア。

丸見えになった内部にはカウンターがあって、そこで大学生くらいの店員が立ち話してる。


知らない場所じゃない。

とても……とても見覚えのある場所。


どこでもいいと思ってた。
ついて行くことを決めたのは、紛れもなく自分。

だけどここ、ここだけは――。