恋を知らない人魚姫。


櫻井くんの目を盗んで、この場から逃げてしまうことは簡単に出来るのに、

そもそも、付き合うことを強要されてなんかいないのに、

“もしも”のことまで考えながら、黙ってついて行くあたしは、どうかしてる。


そう自覚しながらも、決して歩くのを止めようとしない足。

何だっていい。
どこだっていい。

彼なんかと一緒にいたいと思うのは、とにかくひとりになりたくないから。

櫻井くんだから……じゃない。
櫻井くんしか、いないから。


何に対して、誰に対して、こんな言い訳じみたことを思っているのか、分からない。

だけど彼の背中を追いながら、あたしはずっとそんなことばかり考えてた。

だから――。



急に止まった櫻井くんの足。

空けていた距離が縮んでぶつかりそうになって、あたしも慌てて足を止める。

すると、櫻井くんが振り返って……

あたしを見るなり苦笑した。

「な、何?」

笑われる覚えなんてない。

「いや、いっつも後ろにいるから」