恋を知らない人魚姫。


図書室を閉めて、学校を出て。
送ってなんて頼んでないのに、勝手に家の近くまで付いて来て……

いつもなら、それで終わり。


でも今日は、

数歩先を歩いて行く、櫻井くん。
開いた距離を保ちながら、その姿をあたしが追う。


連れて来られた先は、駅前の大通り。

沢山の人が行き交うその道を、あたしは俯き加減で歩く。

彼との間に空けた距離も、あまり顔を上げられないのも、誰かに見られたりしたら困るから。

何だってこんな人通りの多い場所……。

同世代の子とすれ違うだけで、ヒヤッとする。
そんなあたしの唯一の救いは、自分が私服だということ。

学校では目立つ長い黒髪も、街の中では目立たない。
制服さえ着ていなければ、あたしだって気付く人は少ないはず。

それに、前を行く櫻井くんは制服だけど、これだけ距離を空けていれば、誰も一緒にいるなんて思わないだろう。

最悪の場合。愛海に出会したとしても……言い逃れられる。