恋を知らない人魚姫。

ちょっと、待って。
これって――。

思った瞬間には遅くて、彼の顔は呼吸が触れそうなほど近くに。

嫌だと言うことも、体で拒むことも出来ず、ギュッと目を閉じる。

覚悟したのは、唇の感触……だったけど、

「……」

しばらくしても、なかなか現実のものにならないそれ。

ゆっくり目を開くと、櫻井くんの顔はまだ、全体が見えないほど目の前にあって……ニヤリ。

「して欲しい?」

すごく嫌な笑顔を浮かべ、問いかけてきた。

「っ……!」

カッと頭に血が登ったあたしは、両手で彼を突き飛ばす。

後ろによろけながらも、クククと楽しそうに笑う櫻井くん。

ムカつくっ!!

思ったそのままの言葉をぶつけようと、声を出そうとした時、

「ごめんごめん。可愛かったから、つい」

櫻井くんは笑うのをやめて、あたしの目を見た。

可愛かった……?

その言葉の意味を探そうとして、キョトンとしたのも束の間。

「この後、予定ある?」

何の脈絡もなく投げかれられた質問に、あたしの思考はピタッと止まった。