恋を知らない人魚姫。


「月城さん」

「……」

「ねぇ、何でシカトすんの?月城さん」

「……」

だんだん大きくなる声と響く足音に、こっちへ向かって来ていることを、耳で知る。

でも、返事をしない。
顔を向けない。

強情になればなるほど、彼を面白がらせるだけだと分かりながらも、変な意地が無視を貫き通そうとする。

「月城さん」

「……」

「ねぇ」

すぐ傍で聞こえた声。
同時にコツン、と軽い音。

視界の中に映り込んで来たのは、腕。

櫻井くんは握り拳を作って、叩くみたいに肘から下を窓にくっつけて、

「分かった。名前で呼んで欲しいんだ?」

あたしの顔を覗き込み、ニッコリと笑った。

「なっ!ちがっ……!」

応える気なんてなかったのに、思わず口が開く。

これこそ彼の思う壷。

ハッと気付いたあたしは、すぐに彼から顔を逸らそうとする……けど。


それより早く、近付いてきた彼の顔。

窓につけたのとは反対の手が、あたしの頬を包み込むように触れる。

……え。

石化したみたいに、体は動かなくなって。

彼を見つめることしか出来なくなる。