恋を知らない人魚姫。


自分でも認めることの出来ない、行き場のない気持ちに、自然と強くなるカーテンを掴む力。

彼を追っていた目線も、下へと沈みかけた……その時、

窓の外ばかり見ていた彼が、急にこっちを向いた。

あたしはビクッとして、反射的に顔を逸らす。
何事もなかったように、カーテンをいっぱいまで開いて、纏めようとする素振りを見せる。

だけど、彼は多分あたしの視線に気付いてしまった。


「月城さん」

少し離れた距離から、あたしを呼んで。

「……」

返事をしないでいると、

「月城さん」

もう一度呼んで来た。

“何、人のこと見つめちゃってんの?”って、笑われるのは分かってる。

だから、あたしはまた無視をするけど、

それでも、

「月城さーん」

諦めずに声をかけて来る、櫻井くん。

先に続く言葉を聞きたくなくて、ヒヤヒヤした気持ちになるけれど、

さっきまであたしを襲っていた、正体不明の気持ちはどこかへ消えていく。