恋を知らない人魚姫。


予想外の展開に、あたしの目はすかさず彼を追う。

すると櫻井くんは、すぐ隣の窓の鍵を、当然のように閉めて。
そのまた隣の窓へと、移動する。

「……」

また……だ。
また。

彼らしくない、あまりにあっさりした態度。

さっきもそう。
口ごもるあたしを、どうして離してくれたのか分からない。


追い詰めて、困る姿を見て、楽しんでいるんじゃないの?

思惑の見えない、彼の行動に困惑する。


だけど、それよりもっとあたしを困らせているのは……自分自身が抱いている気持ち。

『寂しかった?』って、櫻井くんが聞いてきたそれは、違う。

絶対違う。
そんなはずない。

じゃあ、彼が背中を向ける度、感じるこの気持ちは、一体何……?

相応しい言葉を探してみるけど、思いつかない。

荒れた海面みたいに波立って、落ち着かない気持ちの名前。

それは距離が開けば開くほど、大きくなって……、

“待って”って、手を伸ばしたくなる。


らしくないのは、あたしの方だ。