恋を知らない人魚姫。


早足を通り過ぎて、走り出していたあたし。

その勢いのまま、突き当りを曲がった……直後、

ドンッ!

あたしは思いっきり、誰かとぶつかった。

その反動で後ろに倒れてしまいそうになるけど、咄嗟に引き寄せられ、再び顔をぶつける。

「あぶなっ」

頭上で聞こえる驚いた声。

わざわざ顔を上げてみなくても、相手はひとりしかいない。

「何かあった?」

肩を持たれ、ゆっくりと離された体。
心配するみたいな問いかけに、「え?」と戸惑いの声を漏らすと、

「そんな急いで何かあった?」

櫻井くんはもう一度、聞いてきた。

“何か”ってそんなの、あたしが聞きたい。

「だって、いきなり何処か行くから……」

何も考えず、思ったことを素直に口に出した。

すると、彼は目を少し見開いて……。

「俺?俺は窓、閉めに行っただけだけど」

キョトンとした表情で、そう言った。