あたしの足が進んだのは、一歩だけ。
再び立ち止まったあたしは、彼の背中を目で追っていた。
何で……どうして?
こうして離れてくれていた方が、ずっと都合が良いはずなのに。
迷う様子もなく、早足で歩いていく櫻井くん。
突き当りを曲がって、姿は本棚の影へと消える。
その瞬間、あたしを襲ったのは……追いかけたい衝動。
何でこんなことを思うのか分からない。
相手はあの櫻井くんなのに。
……とうとう本当におかしくなっちゃった?
自分のことを自分で笑って、気持ちを落ち着かせようと試みるけど、
静か過ぎる室内は、抑えたい気持ちの波を荒々しくさせる一方で――。
一歩、二歩と、前に出る足。
それは止まることなく、回数を重ねるほど勢いを増して……速くなる。
あたしの体は理性なんか置いて、彼の後を追っていた。
何とからかわれてもいい。
どんな風に触れられたっていい。
だから、
傍からいなくならないで。



