恋を知らない人魚姫。


「会いに来たのはそっちじゃん」

「っ……!」

耳元で囁かれた言葉。
息が吹きかかって、ゾクッとして……力が抜ける。

それを言われたら、反論出来ない。

でも、

「あなたに会いたくて、来たわけじゃない」

本当に、顔を見るのも嫌だったくらい、嫌いな人。

そんな人の元へ、わざわざ自ら足を運んでいるのは、もっと会いたくない人がいるから。

その相手こそ……愛海。


あたしの体にしっかりと巻きつけられた腕。

細いくせに筋肉の浮き出たそれが、男女の違いを表わして、あの時のことを思い出させる。


知らない部屋で、初めて経験した感覚。

あんなに近くで初めて、人と見つめ合った。

誰も望んでなんかいないのに、浮かんでくる記憶。


あれは、とにかく愛海を想う気持ちから逃れたくて、やったことだった。

自分ひとりでは抱えきれなくなった嫌悪感を、どうにかしたくてやったことだった。


だけどあの行動から、愛海の傍にいることがもっと辛くなった。