恋を知らない人魚姫。



すごくムシャクシャする。

何かに当たり散らしたいようで、泣きたいような……そんな気持ち。

ずっと昔からある、誰もが知ってる童話。
そんなものにさえ苛立ってしまうほど、心に余裕がなくなってしまっているんだろうか……。


そんなことを考えながら、図書室中の窓の鍵を、ひとつひとつ閉めて回る。

手を伸ばした先には、ほんのりと赤く染まり始めた空。

こうしてこの景色を見るのは、もう何度目?


3年生は受験があるから、本当ならカウンター当番は、夏休みから1、2年生だけの仕事になるはずで。

それなのに、あたし達が閉室の準備をしているのは、櫻井くんが代わりに引き受けているから。

そして後輩を帰した図書室で、決まって彼はあたしに連絡してくる。

でも、“来い”と命令するわけでも、“おいで”と誘うわけでもない。

あたしの元に届くのは、“図書室にいる”っていうだけの報告メール。

つまり……


ここに来ているのは、あたし自身。

自分の意思で、あたしは櫻井くんのいる図書室まで来ていた。

しかもそれは、今日が初めてというわけじゃなく、

“あの日”から何度も……こうしてる。