恋を知らない人魚姫。


だから、返す言葉が見つからず黙り込むあたしに、どんどん近付いてくる……櫻井くん。

逃げたいけど、逃げられない。

更にからかわれることを覚悟する……けど、

「あれ、人魚姫?」

隣に立った彼は、あたしが手にしていた本を見て、不思議そうに声を上げた。

「嫌いって、前に言ってなかったっけ?」

「え……」

言われても、すぐにはピンと来なかった。

それほど記憶に薄い、自分の発言。

開いた絵本に目を向けて、少し考えてやっと思い出す。


確か愛海が、この本を見つけたって見せてくれたとき、そんなニュアンスのことを言った気がする。

そんなに良い話とは思えない……って。


ふと、再び開いた絵本に目を向けると、そこに描かれていたのは、人間になった人魚姫を抱える王子様の姿。

一見、幸せを掴んだかのように見えるけど、この後人魚姫を待っているのは……泡になってしまう結末。

結局、どんなに想っても、どんなに大切なものを犠牲にしても、報われない。

生まれて来た世界が違うから、叶わない。

“人魚姫”は、そういう物語。