恋を知らない人魚姫。




「愛海、ごめん」

夕方、5時過ぎ。
ファミレスを出て、家へと帰ろうとする愛海を呼び止める。

「あのね、今日ちょっと寄って帰りたい所があって……」

「うんっ!いいよ、ついてく!」

言葉を最後まで続ける前に、満面の笑みで頷く愛海。

「ううん、遅くなっちゃうかもしれないから、先に帰ってて貰おうと思って」

言いたかった部分のことを告げると、愛海は表情を固まらせる。

「ちょっとくらい平気だよ?まだ明るいし」

「ありがとう。でも今日は……大丈夫」

どう言えばいいのか分からなくて、何が“大丈夫”なのかも分からないけど、とりあえず笑顔を作る。

表情で隠した心の中は、気持ち悪いくらいにドキドキしてた。

甘い胸のトキメキではなく、悪事がバレてしまうのを恐れるような気持ち。

「分かった」

不思議そうな、腑に落ちないような顔を一度こそした愛海だけど、いつもの無邪気な笑顔で頷くと、

「帰ったらメールすることね!」

人差し指であたしの鼻を、ふざけて軽く押した。