恋を知らない人魚姫。


言葉と一緒に動いた、彼の目線。

黙って追うと、それはさっきまで押さえつけられていた、あたしの右手。

何の力も入れていない指先は、小さく……震えてた。


「本当は怖いくせに」

呟くみたいな声を残して、視界の隅から櫻井くんの姿が消える。

それでもあたしは、自分の手を見つめたまま、目線を戻せない。

だって……。


ゆっくり腕を動かして、顔の前で確かめてみる。

あたしは何も意識していないのに、変に力が入ったりもしていないのに、

小刻みに震える指先。


怖い?
怖いの……?

自分でもよく分からない。
どうして今、震えているのか。

だって、あたしが好きな人は女の子。
だから、こういう男女間のことで、特別な感情を抱くことなんてないと思ってた。
簡単に出来てしまうと思ってた。

……でも。


この手があたしの気持ちを現す、何よりの証拠。


「……やめないで」

あたしは震えるその手で、上体を起こした櫻井くんのシャツの裾を、ギュッと掴んだ。