恋を知らない人魚姫。




櫻井くんの背中に腕を回したまま、あたしは体を少し離す。

そして顔を上げて、彼の目を真っすぐ見た。

「男って何なのか、教えてよ」

「な……」

さすがの彼も驚いたのか、目を丸くする。

だけどすぐ、あたしの顎を片手で持ち上げて……、

「本気で言ってんの?」

数センチほどの距離まで顔を近付けて、聞いてきた。

「冗談でこんなこと、言ったりしない」

こういう時こそ面白がるように笑えばいいのに、櫻井くんは真顔。

「どういう意味か分かってんの?」

「うん」

真面目に聞かれれば聞かれるほど、決意は固まってゆく。


これで少しでも変われるなら……構わない。

それに、試してみたい。
あたしが“女”なのか、どうなのか。

知らない世界を知ることで、少しでも正しい気持ちを取り戻せるなら……

愛海のことを“友達”として、見守ることが出来るようになるのなら、


「いいよ」


あたしは目を閉じて、ほんの少し背伸びした。

彼の唇に、自分の唇を重ねた。