恋を知らない人魚姫。


回された腕の力が、だんだん落ちてゆくのを感じる。

きっと今ならここから抜け出せる……のに、

あたしは突き放すどころか、櫻井くんの背中に自分の腕を回していた。


「……なら、助けてよ」

あたしの気持ち、知ってるなら助けて。

すがりつくような声で、小さく訴える。

櫻井くん相手に、何を言ってるんだろう、何をしているんだろう。
そう不快に思うあたしも、心の中にいる。

でも、それよりも……悲鳴を上げているあたし。


櫻井くんが何を考えててもいい。

とにかくあたしは、あたしの抱える“特別”な感情をどうにかしたい。

じゃないと、いつか本当におかしくなってしまいそうで……、

愛海の傍にいれない。


回した腕。触れる背中はとても大きくて、さっき抱きしめてしまった女の子とは全然違う。
あたしを抱きしめる力も、抵抗出来ないほどに強かった。

これが男の人?
女との違い?

確かにあたしは“男”を知らなくて、今始めて知ったかもしれない。

もっと、もっと知ったら……何か変わる?


あたしは一度目を閉じて、口を開いた。

「……教えて」