恋を知らない人魚姫。


「なっ、何するの!? 離してっ!」

驚いて、慌てて体を引き離そうとする。
すると彼は、回した腕にギュッと力を入れて、

「近付いてきたのは、月城さんの方じゃん」

すぐ傍で、そう呟いた。

「ふざけないでよっ!」

あたしは諦めず突き飛ばそうと試みる……けど、びくともしない。

それどころか、頭は彼の手によって固定されて……。

「んっ!」

ゾクッとした感覚が体中に走る。

発信地は、耳。
何かがあたしの耳に触れた。

それが“唇”だと分かったのは、

「男、知らないからじゃない?」

頭の中まで響くんじゃないかと思うほど近くで、彼の声が聞こえたから。

その吐息にまたゾクッとして、目と口をギュッと閉じる。そんなあたしに、

「月城さんが愛ちゃんにこだわるのはさ、男を知らないからじゃない?」

彼は言ったばかりの言葉を、説明するみたいに繰り返した。