恋を知らない人魚姫。


それでもなお、変わらない表情。

「せっかく俺のこと?」

続きを聞かせてよとばかりに、笑ってみせる彼に対して、

「っ……」

あたしはただ、下唇を噛んで睨む。

だって、言えない。
櫻井くんのこと、言うほど悪い人じゃないのかもと見直したなんて……言えるはずかない。

そんなこと喋ったら、きっと馬鹿な女だって笑われてしまう。
騙されて、本当に馬鹿な女だって。


馬鹿な……女?


自分の頭の中に浮かんだ言葉に、ふと感じた疑問。

その瞬間、胸ぐらを掴む手の力が緩む。


あたしは……女だって言えるの?


「月城さん?」

急に抜けた力に気付いたのか、櫻井くんが確かめるみたいに名前を呼ぶ。

その声にハッとして、あたしは再びギュッと服を掴んで、睨みつけようとした……けど、

上手く力が入らない。
それどころか、小さく震え出したあたしの手。

何で今、こんな気持ちになるの。

違う、違うと必死に気持ちを立て直そうと試みる。

だけど、一度湧きあがってしまった感情は、全身を廻るようで……。