数歩開いた彼との距離。
あたしは自ら歩いて近付いた。
そして、両手を彼の方へと伸ばすと……胸ぐらを掴んで、グッと自分の方へと引き寄せた。
目の前。ほんの数センチ先に、彼の顔。
「ふたりっきりで話したかったの」
睨みつけて言った言葉通り。
誰に邪魔されることもなく、ふたりっきりで話したかった。
だから親の不在を聞いて、櫻井くんの部屋まで行きたいと言った。
彼が驚いた顔をしたのは一瞬で、何か企むみたいにすぐ微笑む。
「それはそれは、嬉しいな」
少し動揺させてやりたかったのに、余裕な表情がムカつく。
「何なのよ……」
奥歯を噛み締めて、掴んだ手には力が入る。
「せっかくあたし、あなたのこと……っ!」
込み上げる気持ちのままに動いた体。
あたしは声を張り上げながら、彼の体を押していて……。
ドンッと鈍い音を立て、櫻井くんの背中は閉じられたばかりのドアにぶつかった。



