恋を知らない人魚姫。


「あたしはちょっと本屋さんにでも寄ろうかなぁ……。あ、でもすぐに帰るから、海憂は心配しないで家に帰って」

言いながらあたしの後ろに回り込んだ愛海は、公園の出口へ向けて背中を両手で押す。

「おばさんにちゃんと謝っておいてね?約束ね?」

「う、うん……」

誘導されるがままに2、3歩足を進めた所で、背中に触れる感触はなくなった。

振り向くと、満足そうに微笑んだ愛海。

「今日は本当にありがとう。結局ふられちゃったけど、海憂のおかげで幸せな1日になったよ」

櫻井くんでも、他の誰でもない。
あたしだけに向けられた、愛海の笑顔。

それは今までで一番、あたしのことを真っすぐに想って、見せてくれたものだった。

今、この瞬間、きっと愛海はあたしだけのもの。

欲しかった世界はこれだった。
恋人なんかになりたかったわけではなくて、心を許して笑いかけてくれるあたしだけが……特別な存在。


なのに、ねぇ……どうして?


「海憂が友達で、本当に良かった」


愛海の笑顔と言葉が、あたしの胸をめちゃくちゃに切り裂くのは――。