恋を知らない人魚姫。


嫌な笑いを含んだ、櫻井くんの声。
その声だけで、挑発的な笑顔が浮かぶ。

ずっとそうだったから、予感はしてた。

あたしが困ること、嫌なことを、彼はしてくるって。

でも……

どうして胸が、ズキンと痛んだりするんだろう。

予想通りの発言なのに、こんな気持ちになる理由が分からなくて、紛らわすように小さくため息をつく。

そう。今、あたしが彼に抱くべき気持ちは、呆れる気持ち。

「嫌。無理に決まってるでしょ」

あたしは冷たく返事した。

あたしが呼ばれて飛んで行くのは、愛海の元へだけ。
櫻井くんの元へなんて、絶対行かない。

「じゃあ……」

『ダメだよ、月城さん』

電話を切ろうとしたのに、彼の声がそれを遮る。

ダメっていうのは、電話を切ることに対して……ではなくて。


『もしかして忘れてる? 呼ばれたら絶対に来るって、約束したこと』


まるで切り札みたいに、突きつけられた。

それは……。