恋を知らない人魚姫。


「用なんて……ないんでしょ」

ケータイを持った右手が、微かに震える。

一瞬にして冷めたはずの気持ちは、急速に再び湧き上がって。
声こそ抑えたつもりだけど、怒りは手に表れて、ギュッとケータイを握りしめていた。

『用っていうか、今何してんのかなって思って』

この人には、全く何も伝わってないんだろうか。

「何って、あなたのせいでっ……」

傷付いた愛海と一緒にいるんじゃない!

せっかく抑えていたのに、あたしはそう声を張り上げてしまいそうになった。

だけど全てを口に出す直前で、慌てて口を閉じる。

『俺のせいで、何?』

「いや……」

言っちゃダメ。
愛海と一緒にいることを、この人に言っちゃいけない。

しどろもどろ、ハッキリした答えが返せなくなるあたし。
何とか上手い逃げ道を見つけようとするけど……。

クスッと鼻で笑う声が聞こえて、ビクッとする。

次の瞬間には、もう遅かったことを思い知る。


『ねぇ、今から会いに来てよ』