恋を知らない人魚姫。


目の前にスッと手が伸びる。

愛海の細い指先が、ケータイに触れそうになって、

「……っ!」

あたしは勢いよく、ケータイを持った手を遠ざけた。

焦るあまり、反射的に取ってしまった行動。
対する愛海はきょとんとして、目をパチパチさせる。

流れるのは微妙な空気。

「えっと、ごめん……。やっぱり電話出てくるねっ」

居づらいと感じたあたしは、取り繕うように笑顔を作って、ブランコから離れた。



何てことをしてるの、あたしは。
あれじゃケータイ見られたくないって、言ってしまったようなもの。

色んなことに動揺しすぎて、自分の行動さえ判断出来なくなってる。


小走り気味に歩いている今も、震え続けるケータイ。

愛海にああ言ったけど、電話になんか出るつもりはない。

出るつもりはない……けど。


今、こんなに苦しい思いをしてるのは、まるごと全部この人のせい。


考えたらどうしようもなく腹が立って、許せなくて、

「しつこい!何なのっ!?」

あたしは思いっきり荒立った声で、電話に出ていた。