恋を知らない人魚姫。




びっくりして、思わず手から滑り落ちたケータイ。

膝の上で鈍い音を立て、ピカピカと青いランプが光る。

開いて見なくても、続くバイブで着信だということは分かっていて。
電話をかけてきた相手は、きっとお母さんに違いない。

出来ることなら、このまま無視してしまいたい所だけど、

「電話?」

尋ねてきた愛海の手前、それは出来なくて、仕方なくケータイを開いた。

お母さんだということを確認したら、すぐに留守電に切り換えて、愛海には「大したことない」って、そう言おう。

一瞬のうちに考えついて、決めた。


だけど、


「誰から?」

「……」

愛海の問いかけに、答えが返せない。

ケータイを開いて見た瞬間、一秒前に考えたことすら忘れるくらい、頭の中が空っぽになった。

何で……どうして?
さっぱり意味が分からない。


どうして櫻井くんが、電話をかけてくるの……?