「大丈夫、そんな大したことじゃないから……」

笑顔を作って返事した……その時。

「天恭さん、おはよ!」

前方から聞こえた声。

あたしの表情は、一瞬にして崩れる。


だって、この声――。


「櫻井くん!?」


驚いた声を上げ、その人の元へ駆け寄っていく愛海。

そんな彼女に笑顔を向けつつ、あたしを見て……また違う笑顔を浮かべたその人は、

櫻井 拓也――。


顔は強張って、身動きすら取れなくなるあたしに、

「月城さんもおはよ!」

彼は満面の笑みで、挨拶をしてきた。


「え……。ふたりって、知り合いだったっけ?」

きょとんとした顔で、愛海はあたしと櫻井くんを交互に見る。

そうだ。
愛海はまだ、昨日あたし達が会ったことを知らない。

慌てて櫻井くんに目を向けると、

「……っ!」

フッと笑った彼の表情に、血の気が引いた。

「俺と月城さんはね……」

「まっ!」

待ってと止めようとした言葉は、間に合わない。