恋を知らない人魚姫。


膝の上でケータイを握りしめて、カタカタと震える手。

悪いことをしてしまった後の子供のように、怯えた気持ちになる理由は、自分が一番分かってる。

「たっくんの彼女って、たぶんうちの学校じゃないよね。どんな人なのかなぁ……」

ブランコに揺られながら、夜空を見上げて言った愛海の言葉が、グサリと突き刺さる。


櫻井くんの彼女……。

今とてもビクビクと怯えている理由は、それが……あたしかもしれないから。

別れた。だから、そんなはずないって、頭の中で何度も何度も繰り返す。

でも、考えは巡り巡って……“もしかして”。

だって、分からない。
相手はあの櫻井くんだから。


愛海に何て言えばいいのか分からなくて、もうどうしたらいいのか分からない。

胸の奥が掴まれたみたいに苦しくて、頭の中はパニック状態だった。

そんな時、


「海憂」

「っ!?」

愛海に呼ばれたのが先だったのか、それとも手の中か。

ほぼ同じタイミングで、握りしめていたケータイが震えた。