恋を知らない人魚姫。


暑いわけじゃなく湧き出た汗が、首元をツーっと伝ったその時、

「ごめんねっ……」

泣きながら謝る声が聞こえて、我に返った。

「こんなっ……泣いたりされても、困るよね」

目の前の愛海は、手で何度も何度も拭って、涙を止めようとしていて……。

勘違いしてる。
あたしが何も言わないから。

「ちがっ……」

誤解を解こうと、あたしは声と一緒に愛海の方へ手を伸ばす。

だけど、

肩に触れる直前で、その手を止めた。


真っ赤になって、鎖の跡がしっかりと付いてしまった……あたしの手。

それは無意識のうちに、ブランコの鎖をものすごい力で握りしめていた跡。


「おかしいな……海憂が来る前に、いっぱい泣いといたんだけど」

泣いているのか、笑っているのか分からない痛々しい表情で、愛海が言う。

あたしは気付かれる前に、パッと手を引っ込めた。