恋を知らない人魚姫。


「こんな所にひとりとかっ、危ないっ」

駆け寄って、上がった息で声をかける。

すると愛海は、あたしが来たことに始めて気付いたみたいで、やっと驚いた顔をした。

少し落ち着いたのか、その目から涙は零れていないけど、今までに見たことのないくらい真っ赤に腫れている。

絶えず笑顔を見せていた時間が嘘みたいに、ボロボロの顔の愛海。


「海憂……」

すがりつくみたいな声で、あたしの名前を呼んで立ち上がると、

その瞬間、浮かび上がった涙に、愛海の瞳は揺れて――。


「っ……」


あたしは愛海を抱きしめた。


「みっ、海憂?」

戸惑った声を愛海が上げるけど、あたしはそんなの関係なしに、回した腕に力を込める。

今までで一番近くで感じる、愛海の温もり。

泣きそうな顔をした愛海の顔を見たら、頭の中で何かの糸が切れる音がして。

“考えて行動する”ということが、出来なくなった。

ただ、ただ……自分の気持ちのままに、愛海をギュッと抱きしめる。