恋を知らない人魚姫。



「お母さんごめん!またちょっと出てくるっ!」

リビングの扉を開けず、廊下から声を張り上げる。

「えっ!?海憂!?」

後を追うように聞こえた声。

振り返れば止められるのを知っていて、あたしは逃げるみたいに家を飛び出した。


さっきまでオレンジ色だった空は、もう深い黒へと変わり始めていて。

握りしめたケータイが、何度も震える。

電話をかけてきているのは、お母さん。
行き先も告げず夜に出掛けたりして、間違いなく心配してる。

悪いことをしてると罪悪感を感じながらも、あたしは電話に出ずに走り続けた。




数十分前歩いて通った道をひたすら引き返して……

愛海を見つけたのは、駅のすぐ傍の小さな公園。


遊具はブランコと、ジャングルジムと砂場があるくらいで……愛海は俯いて、そのブランコに腰かけていた。