恋を知らない人魚姫。


「え……」

頭の中の整理が一気につかなくなった。

フラれたって何?
どういうこと……?

「愛海っ」

状況を詳しく聞こうと声をかける……けど、電話口から聞こえるのは泣きじゃくる声と、

『みうっ……っ』

あたしの名前を、ただひたすら呼ぶ声。


胸の奥が熱く、苦しくなる。

そんな風に呼ばないで。

せっかく諦めるって、愛海の幸せを願うって決めたのに……そんな風に呼ばないでよ。


『海憂ーっ……』

ここで距離を置かなきゃいけない。

無難な言葉を選んで、適当に慰めて。

愛海には気付かれないように、距離を。


分かってる。
……分かってるのに。


「愛海、今どこにいるの?」

『……えっ?』

「行くから。今すぐ行くから」


選んではいけない言葉を、道を、あたしは選択してしまっていた。