「ただいま」

「あっ、お帰り」

家に入ってリビングの扉を開けると、キッチンに立っていたお母さんが振り返った。

フライパンのジューっという音と、香ばしい匂いがあたしを迎える。

「ちょうど良かった、晩ご飯まだでしょ?今日お父さん遅くなるみたいだけど……もう食べちゃう?」

言いながら火を止めるお母さん。
ちょうど今、出来上がったらしい。

ここで首を縦に振った方が喜ばれることを知りながら、

「ううん、もう少し後からにしとく。部屋にいるね」

あたしは首を横に振って、リビングの扉を閉めた。


お腹が全く空いていない……わけじゃない。
香ばしい匂いに、ほんの少し気持ちをくすぐられた。

でも、今はそれどころじゃないから。

落ち着かなくて、そわそわしてしまって、きっとご飯なんて食べられない。



自分の部屋に戻ったあたしは、ポシェットの中からケータイを取り出した。


まだ……何の連絡も来ていない。


ふう、と大きく息を吐いて、肩にかけていたポシェットを机の上へ置く。

そしてケータイと一緒に、ベッドの上へと倒れこんだ。