辛い顔なんか見せられない。

櫻井くんは愛海の気持ちを知っていて、呼び止められた意味なんかすぐにピンときたはずで。

あたしが関係を終わらせたのは“そういうこと”だと、今はそれを望んでると、無言で伝える。


「じゃあ、お先に」

目尻を下げ、口角を上げる糸。それが切れてしまう前に、あたしはふたりに背を向け、歩き出した。

ここで表情を崩したら、きっと無意味になってしまうから。

この後に予定なんかないけど、急ぐふりをして。




行きはあの子と歩いた道に、今はひとり。
ふと振り返ってみても、求める姿はそこにない。

こうして……これから少しずつ、一緒にいる時間はなくなっていくんだろうか。

それでも仕方ないと覚悟して、それでも大丈夫だと、友達としてずっと繋がっていけると信じて、愛海の背中を押したはずなのに、だんだんと濃くなるオレンジ色が不安を連れてくる。

それから……。

このまま陽が沈めば、あたしの気持ちも暗い所へと落ちてしまう気がして、足を早めた。


頬をなでる生ぬるい風。

何だか……嫌な予感がしてた。